2008年1月24日木曜日

いのうえ歌舞伎 『IZO』

さて、かつては東邦生命ビルと呼ばれた渋谷クロスタワーを横目に、青山通りを宮益坂上へ上る。
青山通りというと、何故か「アビロードの街」(by かぐや姫 1973)を口ずさみたくなる。なんて云って、納得してくれる人は間違いなく40代後半以降だろう。
やがて本日の目的地である青山劇場(アオゲキ)に到着、Kさんと合流。新感線プロデュースいのうえ歌舞伎「IZOを観賞。
劇団新感線主宰、演出家、作家のいのうえひでのり氏の手になる芝居は、常に期待を裏切らない。
今回は、V6の森田剛が主演で幕末の刺客、岡田以蔵を演じる。
「天に飼われ、天に捨てられ、天に裁かれた犬。その名は以蔵。人斬り以蔵。」
 その無骨なまでの素直さと、それ故の残酷と悲しさを、森田が熱演した。
武市半平太を田辺誠一、勝海舟を粟根まこと、坂本龍馬を池田鉄洋、田中新兵衛を山内圭哉らが演じ、木場克己、西岡徳馬(山内容堂)らとともにがっちり脇を固める。
 剣でしか自己表現ができない以蔵(森田)が、「天が剣を使わせるとき。それは暗殺とは言わんがです。天誅と言うがじゃ。」言えば、以蔵の幼なじみミツを演じる戸田恵梨香が初舞台とは思えない堂々たる芝居で「剣は身体を斬るけれど、心を斬れるのは言葉だけよ」と言う。月並みな言葉ではあるが、テロの時代と云われる今、ズシンと重い。
 暗殺を咎められ容堂(西岡)から尋問される場面、「おまえの天(暗殺を命じた者)は誰だ?」と問われ、「天とは動くものです。」と答える以蔵。
信じるものとは、仕える人とは、それは絶対なものだろうか? 
幕末からはるかの今、社会や組織の一員でありながら、社会も組織も確実な存在なのだろうか? 自分も、天(社会や組織)に飼われた犬にすぎないのか、そしていつか捨てられ、裁かれるのか? 以蔵の悲しみが、現実的な思いとなって胸を打つ。
ラストシーン、処刑のために刑場にひきたてられる以蔵の上に、まんさく黄色花びらが降り注ぐ。以蔵が愛し愛されたミツの花、まんさく・・・・ 
気づけば、頬伝う涙をおさえることができない。客席そちこちにも、すすり泣きが。
当然、満場スタンディング。
まさに期待以上の名演だった。

0 件のコメント: