2007年7月26日木曜日

「錦繍(きんしゅう)」


天王洲の銀河劇場(以前はアートスフィアといった)で、「錦繍」を観賞。宮本輝の原作小説を、 ミュージカル『レ・ミゼラブル』『キャンディード』『ベガーズ・オペラ』などで知られる英国人ジョン・ケアードが劇作・脚本・演出、音楽担当の若手尺八奏者・藤原道山が生演奏で 参加、出演は鹿賀丈史、余貴美子、高橋長英、馬渕英俚可、西川浩幸、西牟田恵ら。

ちなみに、【錦繍(きんしゅう)】とは、 (1)錦(にしき)と刺繍(ししゆう)をした織物、立派な衣服。 (2)美しいものをたとえていう話。

 往復書簡の形で書かれた原作小説の世界をほぼ忠実に舞台化し、静謐な空気が漂う。
「前略。蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて本当に想像すら出来ないことでした。」
 偶然10年ぶりに、前夫・靖明と再会した亜紀が、衝動的に書いた手紙からを幕を開け、非常に簡素な舞台装置のなかで緻密な演出が、実に演劇的な空間を創り出した。演技とは肉体表現だったのだと再認識させるような、小道具と云えば主人公二人が持つ手紙ぐらいのなかでの演技は、役者の生の力量を曝す。だが、遜色を感じる者はいなく、迫力さえ感じさせる。
 様々な、時に劇的な場面展開があり、藤原道山の尺八が鮮烈な効果を演出する。さらに、モーツァルトのレクイエムが印象的だ。だが、何故か全体は緩やかで心地よい主旋律が流れているようで、それはまるでバッハのフーガを聴く感覚にも似る。
 芝居は、運命に翻弄され、別の道を歩みながら、生と死を見つめることになった主人公二人が手紙のやり取りで過去を振り返る形で進む。
 「生きていることと、死んでいることとは、もしかしたら同じことかもしれない。」
 劇中で何度も語られるこの言葉は重く暗いが、実は、死ではなく生への信仰告白であったのかもしれないと、感じられ..........
やがて舞台は、希望を呈示して幕を下ろす。
 人間のもつ業の深さ故、運命に翻弄され、苦しみもがこうとも、いつかは真実の愛に出会い癒される。 
 まさに、
 業が紅く染めた血は拭われ、世界は錦繍の文様に飾られる。

大人が見るべき、よい芝居だった。

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